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広島高等裁判所 昭和41年(う)216号 判決 1969年5月29日

主文

本件各控訴を棄却する。

当審の訴訟費用は被告人両名の連帯負担とする。

理由

本件各控訴の趣意は記録編綴の弁護人星野民雄作成名義の控訴趣意書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

所論は要するに、原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認及び法令適用の誤があるというにある。

しかし、原判決挙示の関係各証拠をそれぞれ総合して考察すれば、被告人両名が共謀して原判示の各罪を犯したことを認めるに十分であり、当審での事実調の結果に照らし検討するも、原判決の事実認定に誤があることを疑うに足りる資料はなく、またその法令の適用にも誤があるとはいえない。

弁護人は特に、(A)当時被告人両名は原判示学校法人鴻城義塾の理事、原田清作は同法人の理事長であつたにもかかわらず、原判決が理由中の「犯行に至るまでの学校法人鴻城義塾内部の紛争など」の項で「被告人両名が理事の資格があつたか否かは昭和三八年三月末の理事会の結果が不明確であつたこと等のためあいまいな状態となり、同年五月一七日には原田清作が作成した辞表によつて同人が理事長を辞任した旨の登記をしたので理事長は空席のままとなつていた」と認定したことは誤である(論旨一の(一)・(二)・(三))。(B)原判示第一の昭和三八年八月六日の理事会は、原判示のように理事の任免及び理事長の選任に関する議案の結論が出ないまま解散となつたものではなく、同日午後四時四〇分頃一旦休憩ののち同日午後五時一〇分から被告人両名及び大谷和子(但し委任)出席のもとに続行され同席上原判示第一の「理事録署名人大谷正雄」作成名義の「理事会決議録」に記載のとおり五名の理事の解任、一名の理事の選任及び被告人大谷正雄を理事長に選任の決議がなされた(論旨二の(一))。(C)右「理事録署名人大谷正雄」作成名義の文書は「理事会決議録」と題し且つ出席理事全員の署名捺印を欠いているなどの点から、学校法人鴻城義塾の寄附行為に照らし同法人の備えるべき議事録に該当しない。したがつて右文書をもつて刑法第一五九条一項にいわゆる「権利義務又は事実証明に関する文書」とはいえない(論旨二の(三)・(四))。(D)被告人両名が原判示の各所為につき共謀した事実はない(論旨五の(二))旨主張するので、以下これらについて順次判断する。(A)原判示「証拠の標目」中「全部の事実につき」の欄に掲記の各証拠を総合すれば原判示のとおり被告人両名が学校法人鴻城義塾の理事の資格があつたかどうかあいまいな状態であつたこと、並びに昭和三八年五月一七日原田清作作成の辞表によつて同人が同法人の理事長を辞任した旨の登記がなされて理事長が空席のままとなつていたことが認められ、仮に所論の理由により被告人両名が当時右法人の理事であり、原田清作がその理事長であつたとしても、原判示第一・二・三の各事実認定に何ら影響をも及ぼさない。(B)原審公判調書中証人石神正(第二回・第四回・第一四回各公判)・同林靖(第五回・第六回各公判)・同藤井栄一(第六回公判)の各供述記載及び理事会議事録(昭和三八年八月六日付林靖外六名の記名捺印あるもの。記録二一六丁以下)の記載を総合して考察すれば、所論昭和三八年八月六日の理事会は理事の任免及び理事長の選任についての審議が審議未了のまま同日午後四時四〇分議長により閉会を宣せられて解散したことが明らかであり、所論のように同日午後五時一〇分から続行され、その席上五名の理事の選任、一名の理事の選任及び被告人大谷正雄を理事長に選任の決議がなされたとの事実は全く認められない。これに反する所論引用の各証拠は前掲各証拠に照らし採用できないし、また原審及び当審証人大谷和子の右認定に反する供述部分は前掲各証拠のほか同人の司法警察員に対する供述調書の記載に照らし信用できない。(C)原判示第一の「理事録署名人大谷正雄」作成名義の文書はその表題及び署名欄などからみて、所論のとおり学校法人鴻城義塾の寄附行為にもとる点があるとしても、その形式・内容に照らせば、これをもつて刑法第一五九条一項にいわゆる「権利義務又は事実証明に関する文書」というに妨げない。(D)原判決引用の被告人両名の検察官及び司法警察員に対する各供述調書(いずれも刑事訴訟法三二六条書面)の記載によれば、原判示第一・二・三の各所為は被告人両名の共謀によるものと認めるのが相当である。

その余の各論旨(論旨二の(一)の一部、二の(二)・(五)・(六)・三、四、五の(一))は、いずれも要するに所論昭和三八年八月六日の理事会が同日午後四時四〇分一旦休憩ののち同日午後五時一〇分から被告人両名出席のもとに続行され、その席上所論のように理事及び理事長の解・選任が行われたことを前提とするもので(かかる事実の存しないことは前段判示のとおり)、到底採用の余地がない。各論旨とも理由がない。

よつて刑事訴訟法第三九六条に則り本件各控訴を棄却することとし、当審訴訟費用の負担につき同法第一八一条一項本文・第一八二条を各適用して、主文のとおり判決する。

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